1. 秋田で郷土学を広める

2004年に秋田で国際教養大学を開学して以来12年間、秋田に移り住んで、最初に感激したのが自然の四季折々の美しさと海・山・里の豊富な食材に酒、県内に100か所以上ある温泉で、週末には県内全域を車で走り廻り、その自然の恵みを満喫していた。同時に、強い印象を持ったのが、地元の人たちの心の温かさと優しさ、そして、どこでも、私がその豊かな自然の恵みを褒めると、決まったように返事は「なんも、なんも」だった。こんなものはどこでも、いくらでもあるだろう、別にたいしたことはない、という表現だ。最初は謙遜しているだけか、と思ったが、どうもそうではない、本気でそう思っていることがわかってきた。

地元の良さは実はそこに住んでいる人たちにはわからない。よそ者が来て、他の土地と比較して、その土地の良さを発見するものだ、ということを実感した。そこで私が大学での教育以外に秋田に貢献できることとして、秋田の魅力の発掘とそれを積極的に外部にPRする役を自らに課すことにした。幸い、移り住んで間もなく、県庁や市役所、商工会議所、青年会議所に市民団体などから「国際化」「グローバル化」について講演を依頼される一方、観光政策・地域おこし運動の助言役を数多く頼まれるようになった。それらを通して、強調したのが「自分たちの住んでいる町村に誇りを持とう」であり、特に県内各地の高校・中学では「郷土学」の勧めを説いた。

縄文文化が栄えた古代から平安時代の都との闘い、奥州藤原3代の栄華の基礎になった歴史から渤海国との交流を含む中世以降の日本海交易、江戸時代の繁栄と明治以降の商人文化の興隆と、秋田の歴史を調べれば調べるほど、日本の政治・経済・文化の歴史の断面が見事に浮き彫りになってくる。江戸時代以降に絞っても、傑出した農業指導者として石川理紀之助や森川源三郎、高僧の了源禅師、東洋史学の狩野亨吉、インカ文明の発見に寄与した天野芳太郎、舞踊家の石井獏など、秋田出身で歴史上の著名人がたくさんいる。そうした人物を郷土の身近な先輩として「発見」し、その功績を顕彰することが、とりわけ中学・高校生たちの郷土愛を育て、「わが郷土の誇り」として、外に向かって発信できるようになることが地域活性化の起爆剤になる、と考えたからだ。

2. 「郷土からの発信」には英語教育が効果的

そうした「郷土からの発信」に、最も効果的なのが、英語で何と説明するかをみんなで考えることだ。今は政府が「英語が使える日本人の育成」を重要な政策課題に掲げているが、それを具体的にどう進めるかについては、学校任せであり、学校では英語教師が「英語のコミュニケーション力」を高めることに苦労している。その学校現場での英語教育は、ほとんどが英会話の励行で、教師たちが強調している「国際理解」とは、もっぱら英語圏の中心である英米の歴史・文化・社会を学ぶこと、と考えているのが実態だ。

だが、そもそも日本人が何のために英語を勉強するのか。それは本来、日本事情を海外に説明する、つまり日本を世界に発信するためにこそ、英語を学ぶ意味があるのではないか。外国事情を学ぶのは、今は翻訳大国の日本では日本語でいくらでもできる。わざわざ英語で学ぶほどのことでもない。

ここで私の考える学校教育のあり方を示せば、

*まず小学校段階では自分の住む地域の特徴を、現場を訪ねることで学んでいくのがいい。遠足(フィールドワーク)で季節ごとの自然の移り変わり、海山、河川の魅力をたっぷり味わい、農家の特産品、商店街の面白さの発見させるのがいい。各家庭のお父さんの職場・仕事場(畑や漁港など)を訪ねるのもいい。前にも書いたが、小学校段階では別に英語を学ばせる必要などない。それよりも「自分の住んでいる町や村がどうなっているのか」を発見させる方がはるかに意義が大きいはずだ。

*中学段階から郷土学で地元の産業・文化・歴史などを総合的に学び、他府県との違い、歴史的な変化でなぜ現在の形になったかを調査させる。そうした調査結果を英語の授業では英語で発表させる。つまり社会科の教師と英語教師が一緒になって、生徒たちを3~5人のグループワークで取り組ませるのがいい。

*高校段階では地域特性の国内での位置づけ、世界各国との比較調査などを行わせる。地球温暖化、環境保護問題、食糧危機、エネルギー危機問題などを調べさせ、発表させる。ここでも英語教師が社会、理科、歴史など他教科の教師たちと共同で進めるといいし、特に高校生の英語スピーチコンテストなどに応募して競わせるのも効果を一層高めるはずだ。

*大学の英語教育では、特に日本について書かれた英文図書を批判的に読み、批評する力を鍛える。それもできるだけ大量に読むことと、正確に和訳できることと説得力のある論文(和文・英文共に)の作成を中心にする。インターネットの自動翻訳機能を利用して機械翻訳した英文がどれだけ正確か、あるいは大間違いを犯すかをグループでチェックすると、生きた英語、本当に使える英語を身に付けるのに役立つ。そうした作業を通して、フィールドワークした地域、テーマについて英文の論集やガイドブックを作成し、ネット上で発信する。

――以上を通しての教育効果として、小学生から大学生まで、地域をよく知り、地域社会に知り合い、友だちが何人もでき、地域の課題を一緒に考える力を養えるようになる。漠然とした「日本大好き」の愛国心ではなく、具体的な調査・実践に基づく郷土愛の育成と「日本」の良さを自ら率先して説明できるコミュニケーション力を身につけさせることができるようになる。

3. 地域を元気にする5本の柱

ここで地域起こしに重要な柱として、私が強調している5項目を紹介する。

①教育=小学校から大学まで、良質でレベルが高い

②健康な「長寿天国」「癒しの里」づくり

③産業・商売が停滞しない。脱「シャッター通り商店街」

④観光資源の有効利用と新たな発見・発掘

⑤国際化・多文化共生社会づくり

――以上のすべてに地元の小学生から大学までは関わることで町が明るく、元気になる。特に高齢者が歓迎する。ジイちゃん・バアちゃんたちが地元の小学校から大学までを「郷土の誇り」として応援してくれるようになる。父兄も巻き込んで、学校を中心にした地域おこしの活動がいろんな形でできてくることが期待できる。特に④⑤で外国人観光客の呼び込みをはじめ、在留外国人の存在、留学生の存在が地域の「お荷物」ではなく、いろんな文化背景を持った人たち、多人種の人たちが「外からの目」でその地域の良さを発見してくれるので、一緒に楽しみながら住める「多文化共生社会」づくりに大いに役立つ。

そこで、具体的に地域おこしを進める上での戦略・戦術して留意したいのが次の5点だ。

(1)「経済成長戦略」ではなく、「成長しなくても住民が快適に生活できる戦略」を基本に据える。――5年後、10年後、20年後、30年後の少子高齢化で地域がどうなるかを考える。人口が減っても、住みやすい街で、住民が健康で幸福であれば外から人はやってくる。地元の人たちが好きな商品(食品・イベント・土地)でなければ、外部の人たちの関心も呼ばないし、地元の人たちが楽しく暮らしていない土地では、外部の人たちにとっても魅力がない。気に入ってくれた「よそ者」がその土地を「第2の故郷・別荘」に思ってくれることを促し、積極的に歓迎する。

(2)地域活性化の3要素は「ヒト・モノ・カネ」ではなく、「ヒト・コト・チエ」。――カネがなくても出来るコト(=イベントづくり)を工夫する。地域の伝統芸能、無形文化財をフルに生かし、新しい物語(ドラマ・ストーリー)をつくり、民話化・伝説化を仕掛けていく。秋田では劇団わらび座が20年ほど前から東北に縁の深い人物を主人公にしたミュージカルを上演して成功している。それらを参考にして、大河ドラマ、TVドラマ、映画化、舞台化などを企画し、実現させる。Crowd-fundingで国内はもちろん、世界中から資金を集める工夫をする。

(3)学校が地域おこしの中核拠点になる。――行政と住民とはあくまで対等の関係で、地域おこしの主役は地域住民であることを明確にする。役人(公務員)は公平・中立な立場からサービスを提供する条件整備役に徹すればよいが、他県の事例などさまざまな情報も持っているので、「チエ」を出すことができる。地元の小学校・中学・高校・大学が、公民館や社会教育施設と連携しながら、「郷土学」の拠点になる。学校の父兄やOB,OG、教職員、学生たちが皆で参加できるイベントを工夫しながら活動を進めていく。

(4)「地域おこし」は女性がリーダーシップを持つとうまくいく。――女性は発想が豊かで、しがらみにこだわらない。男よりもはるかに忍耐強いので、「継続は力なり」という住民運動を続けていける。人数は最低3人いれば動き出せる。女性はボランティア精神が豊かで、共感し合える仲間づくりがうまく、お互いに無理のない範囲で分担作業の割り振りがうまくできる。

(5)地域在住の外国人や留学生に参加してもらう。――在住の外国人は生活不安を抱えながら、地域に溶け込めないで悩んでいる。留学生(中学・高校・大学を問わず)、学校と寮の生活だけで、折角留学してきたのに地域のことがよくわからない不満を抱いている。彼らに気軽に優しく声をかけ、参加を促せるのは(4)の女性たちだ。彼女らは英語ができないことなど気にしない。身振り手振りで話がかなり通じることへの自信を持っている。外国人や留学生に日本語を教えることも面白がってやってくれる。異文化の人たちが入ってくれることで「この町は外人の目には、どう映っているのか」新しい興味がわき、新鮮な視点で自分たちの生活を見直すことができる。それが本当の「国際理解」を深めることになる。

以上、元気にする5本柱も、戦略の5点も、重ね合わせると、どんな田舎であろうと、この町を元気にしようというオバサンたちがいるところは活性化の人材に困らない。そこに外国人・留学生が加われば、一気に活気づく。実はそうしたおばさんたちこそ、優れた「グローバル人材」候補たちであり、彼女らが明るく元気に活動に面白がって取り組むところでは、地域が元気になっている。そういう事例を私は秋田の各地でたくさん見てきた。「グローバル人材」とは、何も政府や経済界が想定する「国際的に活躍するエリート・ビジネスマン」だけではない。外からの視点(メルマガ共同執筆者の渥美育子さんは「グローバルアイ=宇宙からの眼」とスケールの大きな視点の重要性を強調していますが)を積極的に取り入れながら、地に足の着いた活動をする「グローカル=グローバル+ローカル」人材こそが実は本物の「グローバル人材」なのだと私は考えている。