2月28日朝(現地時間)、トランプ米大統領がイランの空爆を開始した。首都テヘランを始めイラン国内の2000ヵ所以上にミサイル、戦闘機、自爆型ドローンを大量に打ち込んで、イランの最高指導者ハメネイを殺害し、全国の軍事施設・関連工場や情報インフラ関連施設などを猛攻撃した。トランプの言い分は、「核兵器の製造と使用を緊急にやめさせるため」としているが、イランとの外交交渉を一方的に打ち切って空爆という実力行使に出たことは国際的な常識外のことであり、国際法や国連憲章など、世界のあらゆる法的秩序を打ち破る無謀な行動としか言いようがない。当日のニュースを BBC放送で聴いて「ここまでやるか」と驚き呆れると同時に、その傍若無人なやり方に強い憤りを覚えた。
イランが核兵器をすでに保有しているかどうかも、核兵器を製造し使用する準備をしているという情報も不明な段階なのだが、トランプは「アメリカ国民及びアメリカ本土に対する極めて重大なる脅威だ」と断じて攻撃に踏み切ったと言う。しかしその根拠となる事実については全く明らかにしていない。しかも攻撃対象がイラン国内全域に及んでおり、首都テヘランをはじめ殆どの地域で壊滅的な破壊をもたらし、電気も水道もほとんどが使えない状態になっているという。トランプはイラン国民に「まず最大の障害である指導者を滅ぼしたから、あとは国民が立ち上がって体制を乗っ取り覆してほしい」と言っているが、約1億人近いイラン国民のうち一体どれくらいがこれに賛同するだろうか。国民の8割以上は、国土を破壊し大変な犠牲を強いてくる軍事大国、アメリカに対して強烈な憤りを感じているのではないだろうか。
2ヶ月前にはカリブ海のベネズエラを突如襲って大統領夫妻を拉致するという軍事行動を起こしたばかりだが、今回は石油大国イランに甚大な被害を与えて、それを「アメリカ国民を守るため」と称して、恥じ入る様子は全くない。さらに、ベネズエラ攻撃の影響で、やはり反米政権を長く続けてきたカリブ海のキューバに対しても、軍事攻撃をすることを半ば公然と認めている。
こうした軍事行動をなぜ強引に進めるのか。その最大の理由は、トランプ本人の「歴史に名を残したい」という強烈な個人的なエゴイズムがあると私は思う。
トランプ1期目(2017‐2021)には、「ノーベル平和賞を取りたい」という望みから南北朝鮮の平和交渉を取り結ぶような動きも示したが、それに失敗すると、北朝鮮リーダーの金正恩を「ロケットボーイ」と揶揄するだけで後は放置した。また、中東情勢、とりわけイスラエルとガザ地区パレスチナ人との対立も手に負えないと見ると、これも放置した。しかも 2014年頃にレバノンでCIA(米中央情報局)、海兵隊が親米政権を打ち建てようと工作して失敗して以来、「中東のごたごたには構いたくない。アメリカとは関係ない」と公然と中東の不安定情勢を無視してきた。それが2期目のこの1年、一気に世界の反米政権を目の敵にするようにして軍事攻撃をかけているのは、それによって敵対国の体制を転覆させ、アメリカの期待するような親米政権を作ることが何よりもアメリカ国民を満足させ、自分の名前を歴史に残すことになると考えているからに他ならない。
トランプ1期目にホワイトハウスの広報官の一人だった女性がトランプ1期目の内幕を描いた本を書いていて、その翻訳されたものを昨年朗読CDで聴いた。政策決定の内幕など最も重要なことについては厳重な口止めがされているらしく、ほとんど書かれていないが、最も面白いと思ったのは、トランプが毎朝ヘアスタイルを整えるのに長時間費やしていること、また何かの政策を発表する時に、閣僚や側近などの人たちの名前を同時に明らかにしていいかと問われると、トランプは平然と「我が政権でスターは2人はいらない。俺だけが常に光り輝くようにしてくれるのが君らの役目だ」と言っていたことだ。つまりトランプは、大統領としてあらゆる政策をすべて自分の思う通りにし、しかもそれを自分の名前で発表し、自分のイニシアティブによってなされていることを強く印象付けることが広報官たちの役割であると決めつけていたし、その度合いは2期目に特にひどくなってきたなと思う。当然、アメリカのニュースを聞いても「アメリカ政府は」という主語ではなく「トランプ大統領は」が主語になる頻度が極端に多くなり、この1年、NPR(全米公共ラジオ放送)のニュースでもほとんど毎日のように「トランプ大統領は」が主語として登場してきている。
そういうトランプを見ていると、チャップリンの名作映画『独裁者』を思い出す。この作品の中で、ヒットラーに酷似した男が大きな風船玉の地球儀を弄んで悦に入っている場面があるのだが、トランプはまさにそれを今演じているとしか言いようがない。
ではなぜ彼がこれほどエゴをむき出しにして無謀な行動をしているのか。その背景を辿ると、それは不動産取引で大金持ちになって、まず金銭欲を満たした後、次にテレビの番組を買ってその司会者・コメンテーターとしてストレートな物言いで人気者になり有名人になった後、第三段階として権力欲・名誉欲を満たすために大統領選に出てきたということから、その行動パターンを伺い知ることができる。彼の最終目的は、権力欲を思う存分発揮して、世界最大の経済、軍事力を意のままに動かす独裁者となることであり、その独裁ぶりでアメリカをグレイト(偉大)にする「偉大な大統領」になることに他ならない。だがそうした目論みが果たしてどれだけ成功するかといえば、私は極めて否定的だ。世界をひたすら混乱に陥れ、アメリカの信頼感を増すどころか、世界から非難を浴びる惨めな国にしてしまうトリックスター(道化役)、それも悪質な役者で終わるだろうと私は見ている。
そもそもイランは強い宗教国であり、宗教的指導者が政治権力を統率することを半世紀以上続けてきた。その指導者を暗殺されて、新しい親米政権がスムーズに誕生することなど、とても考えられないし、これから国内の政治的混乱、対立が噴出して、イランの政治的、経済的安定は、まず20~30年以上は望めないのではないか。加えて、ハムラビ法典から「コーラン」で神の教えとして「目には目を、歯には歯を」という報復が政治的にも心情的にも根強く存在している。イランが武力攻撃されたその日に、テキサス州でイランの国旗をプリントしたT シャツ姿の男2人が機関銃で20~30人も死傷させる事件が起きた。これからトランプ本人だけでなく、トランプを支持する団体や国々でも、暗殺を謀るテロ行為が頻発することは容易に想定できる。それは、アメリカと「同盟関係の深化」を標榜している日本政府にとっても、決して「対岸の火事」視できることではないだろう。
