新年早々、高市首相の抜き打ち解散で衆議院議員総選挙が行われた。結果は自民党の圧勝、それも明治以来の憲政史上政権党が最も多くの議席を獲得しての勝利だった。これには私も「予想以上」と驚いたが、その意味するものをいくつか私なりに考えてみた。まずこの自民圧勝は、日本で初めて誕生した女性首相が就任わずか3ヶ月で今後どういう政策を打ち出すのかがはっきりわからない、という不確定要素が、不安材料というよりもむしろ「やらせてみたい」という期待感を大きく持たせたことにあると思う。高市首相就任後の首相及び内閣の支持率が 70%というのはかなりの高率だし、1990年代の新自由クラブ誕生の時、及び今世紀に入っての小泉純一郎首相の人気、民主党の躍進という時を上回るほどの人気となったのは注目に値する。それは、高市早苗氏本人が予てから自民党内ではタカ派、右翼に位置しているにもかかわらず、女性であるということの柔らかさが国民に強く印象付けられたものと考えられる。

と同時に、立憲民主党が公明党と組んだ「中道」を作ったことが明らかに民主党にとってマイナス要因であり、公明党にとっては、比例代表で公明党議員を全て名簿上位に乗せることで、全員当選という離れ技を演じたことが強く印象に残った。立憲民主党の議員の大半は自民党リベラル派と目される人たちであり、公明党も過去二十年近く自民党と組んで与党となっていた。その意味で、「中道」が国民から見れば自民党の一分派と見られるものであり、中道という新しい連合組織に対する期待感がほとんど持てなかったということに大きなポイントがあると思う。

第三に、かつての20世紀後半の社会の流れを汲んできた社民党が全滅し議席を失ったこと、さらに共産党が議席を半減させて、わずか4議席しか取れなかったということの意味は極めて大きいと思う。それは、政府のやることには何でも反対ということで存在意義を持ってきた旧社会党と共産党の存在価値がほとんどなくなってしまったことを意味する。 20世紀後半の日本政治の基軸であった「保守対革新」がすでに政治用語としてもほとんど意味を持たなくなってきたということを物語っている。

つまり今回の選挙は、日本の政治風土が2020年代に入って「ほぼ完全に」保守化してきたことを示しているし、それは国民がもはや日本で体制転換などを求めておらず、基本的には現状のままで結構という精神風土を広げていることを示している。すなわち日本社会は保守王国であり、せいぜい保守の中でのリベラル派の比率をどれだけ高めるか、あるいは逆に保守の中の右翼タカ派と言われる勢力をどれだけ強めるか、という選択肢しか持たないことを物語っている。

今回の選挙の結果大勝利した自民党内は、ほぼ間違いなく ①保守リベラル派、②保守中間派、③右翼タカ派の3グループに分かれ、その間の勢力争いになってくるだろうし、高市首相自身はこの第3グループのリーダーとなることは間違いない。ただし、保守右翼タカ派が強くなっても、それが自動的に憲法改正から軍備拡張、さらには核武装化という方向に一気に突き進むとは到底考えられない。もしその動きが出てくれば、当然それにブレーキをかける保守リベラル派、あるいは中間派が、少数派となった野党と組んで抵抗することが目に見えているからだ。なぜなら、この保守リベラル派は、実は立憲民主党なり公明党なりとほぼ重なってくるし、急浮上してきた参政党は自民タカ派とほぼ同じ政策を持って重なって来るから、この後想定できるのは、野党内の四分五裂であり、それが一部自民党のそれぞれの会派と手を組むという複雑な合従連衡が行われることになると想像できるからだ。

自民党が大所帯になればなるほど、タカ派の首相も中間派、リベラル派に配慮して、自民全体をまとめていくために、むしろ柔軟路線、党内融和政策を重視せざるを得なくなるはずだ。それが過去の政治の流れからも、むしろ容易に予想できる。その意味でおそらく、一部のマスコミ、さらに旧社会党と共産党グループの人たちはまなじりを決して、高市首相が日本の軍備強化・核武装化を目指して、戦争への道を歩むと声高に非難するだろうが、私個人としては、まずそういう事態になることは考えられないと思っている。最後に高市首相とトランプ米大統領の関係について一言。マスコミはおそらく高市・トランプの「蜜月関係」が危ういのではないかと想定するだろうが、表面上日米の同盟関係は維持されるものの、今後トランプは日本に対し、アメリカの軍事品をもっと大量に買え、東シナ海の警戒を日本自身が強めて中国に対する対抗姿勢を打ち出せと要求してくることは間違いない。それに対して唯々諾々と従うことは、むしろ自分の首を絞めることになりかねないことを、高市政権としては既に察知しているであろう。その点で相当慎重に構えざるを得ないだろうし、そこからアメリカの軍事肩代わりを日本に要求してくるトランプ政権に対して否応なく距離を置かざるを得ない。そのことが、近く予定されている日米首脳会談の大きなテーマになるであろうことは間違いない。