ラジオの BBCニュースでトランプ米大統領がベネズエラを軍事攻撃し、マドゥロ大統領夫妻を拉致したというニュースには驚いた。一国の元首を軍事攻撃し拉致するということは明らかに国際法違反だし、国連憲章にも違反するし、法律的には全く弁護の余地のない驚くべき無謀な軍事行動としか言いようがない。数日後の米 CBSの世論調査では、国民の 7割がこのことに反対し、トランプ大統領を支持したのは 3割弱とのことだった。私としては、支持層が 3割もいるということに軽い驚きを覚えたが、アメリカの政治風土から考えるとそんなものかなとも思った。
このトランプ大統領の決断に対しては、様々な分析・理由説明が行われていることだろうが、私自身が考えていることを以下に述べたいと思う。それはトランプ政権第一期の時からずっと強く感じてきてきたことだが、彼の2期目のこの 1年間の言動は、簡単に言えば彼自身がアメリカの歴史に名を残したいという極めて強い個人的な野心から来ていることであり、それも他の国のことなどどうでもよい、アメリカさえ良ければという以上に、「アメリカ・ファースト」というよりも何より「トランプ・ファースト」というエゴを剝き出しにした独裁者暴君を気取ったものでしかないということだ。
その政治手法は、ちょうど 1年前、2期目の就任演説(昨年 1月 20日の週)前後から露骨に現れてきている。彼の常套文句は「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」だが、何をもって「グレイト」と言うのかは極めて曖昧であり、アメリカが世界に君臨する超大国となって、他国をアメリカの意のままに平伏させるというイメージが極めて濃厚であることだ。友好国だろうと敵国だろうと一切構わずに、他の国々に対して一律に 50パーセント、100パーセントの異常な高い関税をかけるということをまず宣言して、それに驚いた国々がアメリカに再考を促すと、その国々と 1対 1の関係で交渉し、少しずつ関税率を下げていくというやり方だ。それはちょうど、ギャンブルで相手を脅すブラフをかけることに始まって、相手が怖気づいて平伏すればそれで良し、しなければ交渉して関税率を少しずつ下げていくという手法であり、まさにギャンブルゲームの手法を2国間交渉に適用している。
それは、資源が決まっている中で片方がたくさん取れば相手の取り分は当然少なくなるという、あるいは勝者が全てを取る(ウィナー・テイクス・オール)「ゼロサムゲーム」で処理しようという方法に他ならない。つまりそこでは、お互いの交渉でお互いが良くなる、あるいは切り取るべきパイそのものを大きくするという形で臨むというウィンウィン(共存共栄)の関係を築くゲームではないということだ。
この政治手法はまさに帝国主義段階、つまり強大な軍事力・経済力を持つ国がそうでない国をどんどん植民地化していく19世紀以前の弱肉強食の手法であり、そうした歪みを是正すべく、国際組織を作って、お互いに集団で安全保障体制を作っていく、あるいは地域で連携をしながら、共存共栄を図っていくというやり方が発展してきた20世紀をまさに 19世紀型に戻すという手法と言える。
その意味でトランプの現在の政治手法や外交交渉のやり方は、軍事力を持って相手を威圧し、それに従わないものは軍事攻撃をすることも全く辞さないという方法であり、集団防衛安全保障体制という多国間の連携をバラバラに壊そうというものに他ならない。それが彼の国連嫌い、あるいは国連に関連する多国間協力協定というものから脱退することを宣言することに現れているし、アメリカが築き上げたヨーロッパの集団安全保障体制 NATOもバラバラに壊し、ヨーロッパがまとまってアメリカに反対することを強引に抑えつけて、 NATO加盟の一国一国とアメリカとが向き合うという形を作ろうとしていることに、端的に現れている。
そうした手法は、欧米の自由民主主義体制諸国に対しても威圧的に接する態度にもよく出ている。アメリカの高関税政策にカナダが反対すると、トランプは平然と「カナダがアメリカの 51番目の州になれば、関税はなくなる」と言ってカナダ国民を憤然とさせたのは、その端的な例と言える。またデンマークの自治領であるグリーンランドをアメリカが買収するということを1期目に言い出した時には多くの国が冗談だろうと受け止めていたが、 2期目になると、それを本気で外交課題の上位に挙げて、デンマークだけでなくヨーロッパ諸国をも驚かせている。その理由も、1期目の時にはここにカジノを作ればリゾート開発ができるなどと言っていたのを、 2期目になるとそれは一切言わずにロシア、中国がグリーンランドに触手を伸ばそうとしていると言い出して、現にアメリカの軍事基地があるにもかかわらず、グリーランド全体をアメリカの領土にしようと強引に話を進めようとしている。またベネズエラについても、1期目には反米政権を覆すためにと傀儡の大統領候補を押し立てて、マドゥロ体制を転覆させようとしたが、それに失敗したことを背景に今回は一挙に大統領夫妻を直接強引に拉致し、ニューヨークに連行して拘置所に入れるという啞然とするような強引な軍事行動をした。
それだけでなく、同じくカリブ海周辺で反米政権になっているキューバやコロンビアなどに対しても猛烈な圧力をかけ、またメキシコに対しても、麻薬ルートがあることを理由に政治的・軍事的な圧力をかけようとしている。現在メキシコ湾と呼ばれている名称についても、これはおかしいと言ってアメリカ湾とすべきだと言ったのも失笑を買う話となっている。トランプのエゴイズムをむき出しにした言動は、最新鋭の軍艦をトランプと名付けろと言い出したり、また首都ワシントンにあるケネディ芸術文化センターの名称にクレームをつけ、トランプ・ケネディ・センターと改称したらどうかと言い出し、関係者を驚かせ戸惑わせたりもしている。
こうした「俺が俺が」のメンタリティは、アメリカの歴代大統領の中でも極めて異例なものであり、あまりに子供っぽい言動とも言えるが、本人はおそらくかなり本気でトランプの名をアメリカの歴史の中に、あるいは世界史の中に大きく残そうという野心を剝き出しにしていると言えるだろう。それは世界中からのアメリカの信頼を大きく損なうものであり、そうした独裁者を気取れば気取るほどアメリカの威信が失われているということに、本人自体は決して気づかないし、それに苦言を呈する者は直ちに政権内から外されるということから、周りを全てごますりで甘言を弄する者しか集めないという暴君の末路を意味することに他ならないだろう。
